プロローグ
「早く!早くこの装置に…」
辺りが火の海になりつつも、白衣を翻しながら男が言う。
「待って!もうすぐ…、もうすぐだから………」
そのすぐ後ろで女性が返事を返す。だがその手の内にある物を、未だに手放せないでいる。瞳の奥から流れ出る涙が、そっと頬をなぞる。
だが、時は止まってはくれない。
やがて女性は決心して、手の内にあるものを男に手渡した。
「私たちの欲のせいで、たくさんのものが犠牲になった。得た物は何も無いというのに――」
受け取った物を、男が手前にある装置の中に入れた。辺りの火が刻一刻と迫ってきている。
女性が男の側に歩み寄る。装置のガラス越しから見える、徐々に光に包まれていく物を、目を逸らさずに、見つめていた。
「だからこそ、せめてこれだけはどうか無事に」
男は女性の肩に、そっと手を乗せた。やがて光は、青白く、まぶしい閃光となって、消えた。
そして、炎の海が、二人を飲み込み、更に激しく燃え上がった………。